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日常編 イヨの世界・前日譚A


-1-

8月。私立遠野学園。女子棟一階、楓の木の影の教室。

夏の朝、教室はいつもより少し騒がしい。

遠くでセミや吹奏楽部や野球部が競うように声を張り上げ、夏の灼熱した空気をさらにかき混ぜている。
わたしことミク(学生№0008 神月美紅)はその空気がわりと嫌いじゃない。


さーて、一時間目は体育の授業だったかな。

クラスの皆は更衣室にはいかず、むしむしするので窓を開け放ったままの教室で着替えをしてた。
この辺は女子棟の校舎だからクラスメイトも女子ばかりだし、男子は別棟に隔離されてるからめったに来ない。
(先生や用務員のおじさんは時々通るけど)

わたしも最初は恥ずかしいって思ってたけどすぐ慣れてしまった。
まぁ確かに男の先生なんてお兄ちゃんみたいなものだもんね。裸くらい見られても平気。

と──思いに耽りながら着替えるわたしの後ろから、それこそ夏の青空のような陽気な声がした。

「うわっミクが履いてるそれって短パンじゃなくてブルマじゃん!か-わいー!どしたのそれ?」

ともだちのマドカ(学生№0913 時任まどか)が一番触れてほしくない話題にダイレクトに触れてきた。
自分でも顔が赤くなるのが分かり、思わず俯いてしまう。

「ま、マドカ、声おおきいよー」
「わりい。でもやけに似合ってるんじゃんwモトユキ(熱血教師 二次元行)の為にコスプレでもしてるの?」
「ち…ちがうよ、あの人は関係ないもん」

恥ずかしい、その誤解は恥ずかしい!
先生に裸を見られるより恋してると思われる方が恥ずかしいとは、我ながらどういう理屈だろう。

「・・・・・・あのね、母さんが今朝わたしの体操服をアイロンで焦がしてダメにしちゃって、
代わりにこれつけなさいって」

「ははーん、ミクの母さんドジっ娘だもんなw たしか前の調理実習ん時もエプロンじゃなくて割烹着持たせてた」

「しかもこれ名前入りなの」
わたしは精一杯困った顔で言いながら体操服のすそをぺろんと裏返す。《3-B こうづきまなみ》。

「ぶふっwwwww」
失礼なことに、マドカが耐え切れずに吹き出した。

「あはっ、あはは!あーははははは!w真奈美さんの若い頃のかよ!
ぶはっ、まぁそりゃそうだな普通ウチに換えのブルマなんて無いもんな!w
そっそれで胸のところが布あまって・・・あははははw」

「・・・・・・笑いすぎ」
「ひー苦しいw助けてw背中さすってwww」
「知らない。もうマドカなんか置いてくもん」

わたしはわざと冷たく言いながらさっさと着替えを終える事にした。


ちょっと短い体操服のすそをひっぱってへそを隠して・・・
ブルマもOK・・・と。
あとはつんつんに伸びた紅い髪を後ろ手に纏めて、軽く口にくわえたゴムでポニーテールにしたら・・・よし完成。
結構長いし量もあるので大変なんだけど、わたしの髪はヤマアラシの針のように鋭いのでこうしないと危険なんだよね。


「マドカ、はやく着替えないと本当に置いていっちゃうよ」

「ちょっと待って、携帯のカメラがうまくピントあわねーんだ・・・
こらミク逃げるな、いいじゃん記念に一枚くらいさーw」

本当に置いていくことにした。


-2-


私立遠野学園の女子グラウンドにはもう何名かの生徒がいて立ち話をしたり木陰で涼んだりしていた。

この学園は男子校と女子校がそのまま併合されてできたマンモス校で、厳密に言えば共学じゃない。
校舎はもちろん、グラウンド、プール、図書館に至るまで男女は隔離されている。

別にIDカードとか入館チェックがあるわけじゃないし、
異性の棟に行く事は不可能じゃないけど、
やっぱり目立つことは避けられないと思う。

だから
「ハギヲ!ちゃんとボール打ち返してよー」
と、男子っぽい名前が耳に入ったとき、わたしはなんとなく振り向いてしまった。

後ろのコートでテニスの壁当てをやっている女子グループだった。

どうやら手前にいるちょっと運動神経控えめな感じの三つ編み眼鏡の子が
ハギヲちゃん(学生№1325 萩尾むつみ)みたいだ。

でも、そんなことより──いや「そんなこと」呼ばわりは失礼だけど、
もっと衝撃的な人物がわたしの目にとびこんできた。

わたしはとっさに彼女から隠れるようにコートの柱に背をあずける。
あうう、なんでこんな所に・・・・・・!

女子グループの中のひとり。
わたしの天敵。

この学園始まって以来の空前絶後、才色兼備、文武両道のお嬢様──トーマちゃん!(学生№0526 森 都馬)

いや、天敵というかあっちが一方的に噛み付いてくるだけなのだけど。
とにかくわたしは彼女が苦手なのだ。

「あらぁ、そこにこそこそ怯えたネズミみたいに隠れてるのはミクちゃんじゃない?」

ぎくっ。バレてた。
「ちゅ、ちゅーちゅー」
「冗談だって。出ておいでよ。姑息な真似は好きじゃないの」

得意技のネズミの物真似できりぬけようとしたわたしを冷たくあしらうように言う。
うう・・・・・・この生まれついての有無を言わさぬお嬢様気質・・・・・・。

「久しぶりじゃん、ミクちゃん。去年一緒に出場した全校水泳大会で
華麗なワンツーフィニッシュを決めて以来かしら?」

「だ、だったかな?」

「貴女が一位で私が二位だったけどね」

トーマちゃんの声の温度が数度冷える。

「うっ・・・あ、たしか秋の芸術祭のときに一緒にメイド喫茶の店員さんをやったのが最後だよ。
忙しいけど楽しかったねっ」

「ああ、貴女が全てのスイーツを売り尽くして午前中には閉店したやつね。私達はヒマだったわー」

夏なのに空気が凍る。

「あの、あのね、年末の模試の試験会場で隣だったこともあったね。今思い出した」
「隣で居眠りされて最悪だったわ。20秒で答案埋めれる事にも驚いたけどそれで私と同点だった事にも驚いた」

もう家に帰りたい。まだ一時間目だけど。

そう。
なぜ彼女が噛み付いてくるのかと言えば、
彼女が打ち立てた空前絶後の記録をわたしがことごとく破ってしまったからだ。

でもそれは、わたしがもつ『ある理由』に起因する。


「ふふ……ここであったが百年目、観念してよ」
「そ、そんな台詞を吐く女子中学生は初めてみたよ」

「私をただのJCだと思わないで。体育の授業が始まるまで・・・あと15分36秒ほど。
今日はあの凶暴女(マドカ)もいないみたいだし、ちょっとだけ遊んでいってよ」

ぴく。

「……なにして遊ぶ?」

「私テニス部の部長だから、テニスで」
「ずるっ!それは『姑息な真似』には入らないの?」

わたしの訴えを華麗にスルーして、トーマちゃんはテニスラケットをふたつ用意した。
それを素直に受け取る。

…しょうがない。
実はさっきマドカを凶暴女呼ばわりされて、少しだけ、闘志が湧いてきたところだ。


「あら、意外と素直じゃない。私もこの日のために必殺技まで編み出したんだ。そうこなくっちゃね!
じゃあいくよ。

私立遠野学園2-C。テニス部部長、森 都馬は。
私立遠野学園2-A。万年帰宅部員、神月 美紅に対して────いざ!尋常に!」


無駄だと思う。どうせ

「勝負を挑みます!」

わたしが勝つ。


-3-


「ところで貴女なんでブルマなのかしら」
「そこはもうほっといてよ!」
思わず大声をあげた。

場所はテニスコート中央、ネットを挟んで互いに3メートル。

グラウンドの端、生徒の登下校にも使われる葉桜の並木道に接する形で(もちろん金網で仕切られているけど)
このテニスコートは存在している。
つまり学園のわりと外周側にあるわけで、道行く人からもフェンスごしに観察できる位置にあって、
トーマちゃんの発した「ブルマ」という言葉でご近所さんが近寄ってこないか、わたしはひやひやしていた。

衆人環視のなか、やけに短いこの体操服とブルマでテニス勝負!
もはや罰ゲームだ。どんないじめなの?と聞きたい。

「まぁそこには触れないであげる。
かつて、競泳用・パフォーマンス用の水着を自由に選択可能だった水泳大会で、
ただひとり小学生のようなスク水を着ていた貴女のことだもの。なにかこだわりがあるんでしょ」

「・・・・・・」

トーマちゃん、実はそれもお母さんの水着なの・・・・・・。

「と、とにかく早く始めようよ、人が集まってくる前に」
「そうね」

――もう言葉はいらないわよね。
彼女はそう呟いて──土の地面にテニス用の硬球を軽く二度バウンドさせて。

不意に、トスとほぼ同時に低空軌道のサーブを打ち込んできた!

き、奇襲!?

どっちにサーブ権があるかも決めてないのに──開始の合図もまだなのに!
しかし考えてみれば審判も存在しないこの試合、『ゲーム開始』の合図もまた存在しないのだ。
サーブは正確にコートの対角線へ吸い込まれていく。

しまった、わたしは完全に虚を突かれたんだ!

しかし。



それでもなお、余裕で間に合う。


普通に硬球に追いついて、当然の如く打ち返す。



「えい」
「なっ!?」

打ち返したボールは彼女の耳のそば、髪を貫くように通り抜け、途中で回転によってわずかに角度を変え
エンドラインぎりぎりに鋭く突き刺さる。
審判がいないから今のがフェアかどうか疑う者もいない。先取点はわたしのポイントだった。

「な・・・・・・何よ今の動き!人間じゃないわよ!?」

うん、トーマちゃんはやっぱり賢い。それで正解だった。
わたしが彼女に負けない理由。


それはわたしが人間じゃないから、だ。

神獣と呼ばれる、人間の完全上位互換種。
世界中の伝説に登場する魔獣・幻獣・神・悪魔たちの、壮大なる元ネタ。
紅い髪も、異常な敏捷性も、人間としては優秀な彼女をあらゆる面で凌いじゃう万能性も。

わたしたち神獣としては、余裕で普通で当然な、基礎ステータスに過ぎなかった。


「ごめんね。トーマちゃんは試合前に『私をただのJCだと思わないで』っていったけど・・・・・・
わたしもただのJCじゃないの」

「ひっ・・・・・・」

「さぁ、体育の授業が始まるまであと8分12秒05あるよ。
マドカに謝るって約束してくれるまで…ちょっとだけ、遊んであげる」


わたしはどうやら自分の想像以上に怒っていたみたいだった。

気づいたらトーマちゃんが土埃まみれで涙目になっていて、わたしは体操服がめくれて大変なことになっていて、
ブルマも食い込めるだけ食い込んでて、ポニーテールのゴムがはじけ飛んで無くなっていた。


おまけにいつのまにか観客(と言うほどでもないが、フェンスの外の通行人)が集まっていて
「ほほうブルマとな!」
「なんと懐かしい・・・」
「もっとめくれろ!」
「胸があつくなるな」などと盛り上がっていた。


え。
うそー。
これなんて罰ゲーム…?

わたしはしばらく思考停止して。
「い・・・・・・いやーん」
と超棒読みで言い残して、逃げた。

なぜか背後から拍手が起こった。


-4-


「もういや!いつまでブルマネタが続くの!?作者はバカなの?死ぬの?」

「ん、ミク今何か言ったか?」

「はぁはぁ・・・・・・あれ、なんだろう、よく考えたら今の台詞自分でも意味がわかんない。
わたし混乱してるのかな」

「混乱してんだろ。お嬢には恨まれるし恥ずかしい目には遭うし、今日は踏んだり蹴ったりだなーwかははw」

マドカが笑う。
勝負には微妙にマドカも関係してるんだけど・・・・・・と思いつつも、
彼女の、夏の青空のような笑顔を見てたら何だかわたしまで嬉しくなってくる。

「ま、天敵がひとり友達になったんだから結果オーライだろ。なぁトーマ?」
「・・・・・・馴れ馴れしいわよ、マドカ」

マドカの腕のなかでそう呟いたのは、
学園始まって以来の空前絶後、才色兼備、文武両道のお嬢様──トーマちゃんだった。

肩に手をまわされているのを心底迷惑そうに、しかし少し恥ずかしそうな表情で。
テニスコートから離れた芝生の上に、女の子座り。

「そうつれねーこと言うなよ。少年漫画ではよく言うだろ、喧嘩したら友達(ダチ)じゃい!って」
「ふん…あいにく、私は恋愛文学しか読まないのよ」
「んじゃ面白いの貸してやんよ。今日の放課後ウチに集合な」
「だから何でもうそんなにお馴染みの仲良しメンバーみたいな感じなの!?
 ミクちゃん!私マドカに暴言を謝るとは言ったけど友達になるとは言ってないわ!」

「ん・・・・・・マドカってそういう人だから。諦めてよトーマちゃん」
私は困った顔でそう返すしかなかった。

と。
「あ、あの、こうづきさん、こ、これどうぞ」

不意に後ろから陰気な細い声がした。振り向くと・・・ああ、最初にテニスコートにいた女子グループの一人だ。
ちょっと運動神経控えめな感じの、三つ編み眼鏡の子。
息を切らせながら両手いっぱいに缶ジュースを抱えている。どうやらジュースをくれるらしい。

「ありがと。えっと・・・・・・ハギヲちゃん?」
「!!」
缶ジュースがばらばらと落ちた。

「わわっ、缶が転がってくよ!?」
「う、うん、落としちゃった・・・でもそれはさておき」
さておいてて良いの?どんどん草にまみれてるけど・・・・・・

「うれしい、名前」

「え?ああ、ちゃんと覚えていたのがってことかな?
でもハギヲちゃんだってわたしの名前知っててくれたじゃない。
そんなことより缶ジュースが・・・・・・」

「テニス、すごく、じょうずでした」
なぜかぽっと頬を染めるハギヲちゃん。
誉めてくれるのは嬉しいんだけどジュース・・・。
この子けっこう、マイペースな性格みたい。

話の腰を折るようで悪いと思いながらも、わたしが缶を拾い始めると、ハギヲちゃんも慌てて拾いだした。

「よかった、草を払えば大丈夫そう。にしてもすごい量だねー」
「ボク、みんなの分も買ってきたから」
「!?」
ぼ、ボクっ子だった。意外な個性だ。
ハギヲちゃんはジュースを配りに、みんなの所へてってってと走っていく(あ・・・足遅い・・・)。

「あらハギヲ、気がきくじゃん。先生にバレなかった?」
「だ、だいじょぶ。ボク存在感ないし・・・・・・ステルス機なみ」
「あははwトーマって面白い友達もってんだなー!wお、あたしにもジュースくれんの?」

セミが気持ちよく歌っている夏の空。

芝生はほんの少し斜面になっていて、寝転ぶとマドカの笑顔のような青空と入道雲がみえた。

ふう。わたしはやっと肩の力をぬいて、大きく伸びをした。

いい天気。

マドカもいて、トーマちゃんとも何となく仲直りできて。不思議な友達もできて。

こんな日に飲む飲み物が美味しくないわけがないよね。


みんな体育の授業のことも忘れてボーッとしていた。
「あれ・・・・・・体育の授業?」



「こらああああああああ何をのほほんとサボってるんだお前らぁあああああああああああああああああああっ!」

「やべぇ、あの暑苦しい怒声はモトユキだ!逃げるぞ!」

熱血教師 二次元行、ここに来てまさかの登場!
わわわ、どうしようどうしよう!髪もボサボサだし変なブルマだしどうしよう!

「私達もズラかるわよ!ハギヲ!」

「う、うん」

それぞれが空き缶を両手に抱えて(証拠隠滅)、てんでバラバラの方向に駆け出すわたし達だった。

ハギヲちゃんが顔を赤くして精一杯の声で叫ぶ。
「じゃ、じゃ、じゃあね、まなみさーん・・・!」


・・・・・・まなみ?
横を走るマドカが「これじゃね?」といってわたしの体操服のすそを裏返した。《3-B こうづきまなみ》。


わたしは「ズコー」という間抜けな擬音とともにそれこそ少年漫画のようにコケた。

当然マドカともどもモトユキに捕まってブルマ姿のまま体育の授業へ戻されるのが、
今回のオチだったとさ。ちゃんちゃん。


しかし、なんというか、もう・・・・・・。
わたし達の新しい友達、天然僕っ子ハギヲちゃんは、けっこう恐るべき人格なのかも知れなかった・・・・・・。


-5-


マドカとじゃれあって、トーマちゃんと遊んで、ハギヲちゃんと知り合って、モトユキ先生に叱られて。

登校してからほんの数十分で色々な楽しいことがあって、今日もわたしの世界は円満だった。

この時が永遠に続けばいいなと思うくらい。

でも、この体育の授業中にわたしは思い知らされる。

普通の学園生活が、ここで終わるということを。
異常極まる惨劇が、ここから始まると言うことを。

──人間じゃないわたしが、まともな日常など送れるはずがないということを、思い知らされる。



「は、ははハギヲちゃんが履いてるそれってもしやブルマでは!?」
「まなみさん、こ、声が大きいです・・・・・・これは事情があって仕方なく・・・・・・」

朝のマドカとの会話を再現してるかのよーな女子がふたり。
わたし(まなみさん)とハギヲちゃんだった。

「いったいどんな事情が…でも、理由はともかく、この学園内におなじ恥を共有できる人がいるってことが
うれしいよ!わたしたちはブルマ仲間だねハギヲちゃん!」

「ぶ、ぶるまなかま?」

よく考えたら恥ずかしい名称だった。
でも朝からさんざんその恥ずかしいブルマをネタにされ、イジられてきたから、
こんな近くに仲間がいると分かっただけで感動しちゃうのだ。


「なんだか不思議ね、ハギヲとミクちゃんがあんなに仲良しだなんて」

「そう?あたしに言わせりゃけっこう似たもの同士って感じだけどなー」

「でもどうして"まなみさん"って呼ばれてるの?」

「ハギヲのやつ、テニスの試合中にミクの体操服に書いてあった名前をみて勘違いしてんだよ。
 面白いからまだ黙ってるけど、ヘタしたらミクのこと3年の先輩だと思ってるかもしれねーぜw」

「馬鹿な子・・・・・すこしは変だとは思わないのかしら」

横で話してるのは、そっちはそっちで仲良くなっているトーマちゃんとマドカ。
いや、トーマちゃんの周りにはテニスコートにいた女子グループの他2人もいて、笑ってる。
後で名前を聞いてみたところ、ほほに傷のある糸目の娘がキリエさん(学生№0863 春原切り絵)。
たれ目の可愛い女の子がサアヤさん(学生№0521 砂島沙綾)と言うそうだ。

グラウンドではあちこちで生徒がペアを組んでフットサルの練習中だ。
わたしたちも六人で輪になってリフティングやボール回しをしてる……ように見せかけながら
おしゃべりを楽しんでいたのだった。

「キリエちゃんだっけ、なんで長袖のジャージ着てるんだ?暑くね?」
「あー、ウチはビンボーで服はこれしか…ってそんなわけあるかーい!はは、これはただの日焼け対策や」
「おおう…関西弁かよ!wしかもノリ突っ込みだ!」
「漫画で覚えたエセ方言やけんねw ほら、ウチ帰国子女やんかー?」
「ほらミク、ここ突っ込む所だぞ」
「え?あ、そうだよね…えっと、そんなわけ、あるかーい(ぺしっ)」
「いやいやいやこれボケちゃうで!ホンマに仏蘭西生まれで…なにそのジト眼。信じれやー」

「サーヤ、リフティングに付き合って頂戴」
「トーマ、リフティングは本来ひとりでする物です」
「サーヤ、私が足を使った競技がド下手なのは知ってるでしょ。いいから大人しくサポートしなさいよ」
「トーマ、それはサポートという名の球拾いではないですか。そんなのゴメンです。ファックです。ふざけんなです」
「サーヤ、給食のプリンをあげるわ」
「トーマ、ボールをたくさん借りてきました。まずは胸トラップの練習からいきますか?」

女子の会話は尽きそうもない。
楽しいなぁ。
こんな日がずっと続けばいいのに。

すこし汗ばんだ体に吹き渡る夏の風が気持ちいい。
太陽は本格的に猛威を振るいはじめてグラウンドの遠くの景色が歪んで見える。

その歪んだ景色の向こうで、モトユキ先生が犬においかけられて
(彼はしっぽのある生き物が嫌い)まわりの生徒を爆笑させていた。




※※※※※※※※※
いただきます。
※※※※※※※※※




「え?」

いまなにか、聞こえたような。


「ねぇ、いま誰か知らない男の人の声がしなかった?」
「いや?なにも」

きこえなかったぜ、とマドカが答えようとしたその瞬間。



ぐらっと視界が大きく傾いた。


え、と思う間もなく──地面がどんどん右に──転覆する船のように回転し始めた!

空が頭上ではなく右肩の上に移動し、どんどん、どんどん──!

「え、え?なんだこれ・・・なんだよこれっ!?」
「あれっ?めまい・・・じゃないよね」
「グラウンドが、地面がっ」
「崩れ」
「きゃあああああああぁああぁあぁぁああああぁああああぁあっ!!!」


反射的に足を踏ん張る。が、もはや傾斜が酷すぎて立っていられなかった。

みんなもう既に地面にへたり込み、近くにいる友達と抱き合いながら必死で滑落を防ごうとしている。


「だめだ、落・・・落ちるぅっ!?」
「うわっ、うわぁ、あああああああ!」
「助けて、助けてっ・・・神様っ・・・!」
「落ち着け!みんなの命はオレが絶対に守る!まずは近くの物に掴まるんだっ!」

モトユキ先生!

悲壮な悲鳴と、犬のほえ声と、あいかわらず頭の割れそうなセミの大合唱が空気をかき乱す。

ボールがてんてんとグラウンドの奥に転がっていく。

並木道の葉桜がめきめきと横に倒れていく。

遠くの校舎に、ぴしり・・・と長いヒビが走るのさえ見えた。


おかしい・・・こんな、こんな──まるで世界がひっくり返っていくみたいだ!
このまま傾いていったら、最後はまさか、空に落ちて──!?

わたしは叫ぶ。


「マドカ!先生!ハギヲちゃん!みんなーーーーーーっ!!!!」




ぐるん。































※※※※※※※※※
ごちそうさま。
※※※※※※※※※



























またあの声だ・・・・・・。







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[ 2012/07/12 10:51 ] 小説 イヨの世界・前日譚 | TB(0) | CM(0)

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