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響け!ウェディングマーチ・その1

小説家になろう」というサイトにも掲載しています。
http://ncode.syosetu.com/n1621da/


《機神エルベラ》シリーズ
第一章
「響け!ウェディングマーチ」



-1-


「ふん、いまいましい太陽め。
暑過ぎる。あまりの暑さに行軍が遅れてるじゃないか。
僕が神ならあんな天体など軍法会議にかけて銃殺してるところだ」

風の大陸アールヴ、その大陸をおおきく横切るようにしてジュレール大渓谷は存在する。
天は高く雲は流れ、涼やかな風が渓谷に吹き渡り、絶好の行軍日和に思われたけど。
如何せん、灼熱の太陽があまりにも激しすぎた。
この谷底を歩くすべての者は瀕死のアリのような気分を味わわされている事だろう。

僕ことジョウ・ジスガルド指揮官も例外ではなかった。
鉄の大陸クレッセン、蒸気都市ラグネロ生まれの12歳。
極秘任務を架せられて。
たったひとりの行軍の途中。

まさか、この渓谷で出逢う女と結婚するはめになるなんて、この時には思ってもいなかったけれど。


頭上の青空を、遊泳中のドラゴンがゆっくりと通り過ぎ、そのひとときだけ影ができる。
その影にもあっという間に追い越されてしまい、また灼熱の道。
トカゲが僕の足を潅木かなにかと間違えて登りかけて蹴飛ばされ、あわてて砂に潜る。

かしゃり、かしゃりと、腰にさした軍刀(サーベル)が揺れる音が無人の渓谷にこだまする。

な・・・なんて長い道のりだ・・・

「ええい、身に付けた金属鎧とマントが熱をもっていてますます歩きづらい!
ふざけるな!何が悲しくて馬の一頭も無しにこんな長い谷底を渡らなくちゃならないんだ!」

ラグネロ機竜軍のマークが刻まれた指揮官用の兜はとうに脱ぎ捨てていたが、
他の装備はさすがに脱ぐわけにはいかなかった。
(なにしろ、これから向かう機神都市エルベラの前には、"門番"と呼ばれる3人の魔法使いがいるのだからな・・・)

憎憎しげに歯噛みした。
僕はこれから、ひとりでその3人を相手しなくちゃならない。
これは蒸気都市ラグネロが機神都市エルベラを占領するための、いわば露払い・・・前哨戦だった。

誰でも勉強すれば習得できる"魔術"士ならまだしも、神から授けられた"魔法"を使役する者を相手に。
僕は少しばかり得意な鉄魔術と、冴えた頭と、腰に携えた一本の軍刀で、勝利しなくてはならないのだ。


どうみても不可能な任務だった。


しかし、上官の命令は絶対だ。それがラグネロの掟。

そして──その不可能を何度も可能にしてきたのが、この僕、ジョウ・ジスガルドなのである。


「む・・・前方に人ひとり潜むのにちょうど良い岩陰を発見。
時間もちょうどお昼時といった所か・・・よし、これより行軍を一時休止、兵站の補給に移る!」


兵站の補給(おひるごはんの準備)をするために、僕は腰の軍刀を抜きはらって、谷の壁に生えた適当な雑木から枝を切り取る。皮をむいてかじれば養分を摂取できるしわずかに食物繊維をとることもできる。
味?そんなものには興味ないね。

さらに岩陰の土を深く掘って、染み出してきた泥水を浄化式の水筒に汲み、しばらく振って寝かせる。
これは砂漠地帯での水分の補給方法だ。
腹は壊すけど問題なく飲める。泥などを気にするような軟弱者ではない。

さて、あとはトカゲかその辺の虫けらでも捕まえて焼けば行軍中の食事としては上等だ。まずは火を起こすか・・・

と、そこまで考えて。
僕がいる岩の上、足をぷらぷらと揺らしながら腰掛けている敵影を発見した。

馬鹿な!?さっきまでそんな気配はなかったはず!?
「なっ・・・なんだ貴様は!?動くな!動けば殺す!」

「・・・はい?」
敵影は、きょとんとこちらをみて。
口にくわえたおにぎりを、あわてて膝の上のランチボックスに戻した。
なんだか恥ずかしいところを見られた風だ。

「目的と所属と名前をいえ!」
「え、えっと、目的はっ・・・あの、ごはんを食べていました。貴方と同じですね。えへへっ」

そういって笑ったのは──この砂の谷には不似合いな、純白の花嫁衣裳に身を包んだ女だった。
陽光にやわらかく溶けるような、淡い金髪。茶色い瞳。
極楽鳥花で彩ったヴェールまで被っているのに、砂埃も気にせず岩に座り込んでいたし、足も素足だった。

年の頃は15、6か?
いや、僕よりかなり長身で成熟した体つきだ。20歳くらいだろう。
やけにゆるい表情でマヌケ面をしているから幼く見えるのだ。
20代が「えへへっ」などと言うな。生理的に苦手なタイプの女だった。

そのうえ、そのゆるーい笑みで緩んだほっぺたには──

「ごはんつぶがついているぞ貴様!見苦しい!取ることを許可する!」
「は、はいっ、ありがとうございます」
僕は思わず情けをかけてしまった。
なんだこの女は?まるで隙だらけだ。
とりあえず女に岩から下りてくるよう命令し、続けて尋問する。

「貴様、民間人か?所属は」
「はい、このジュレール大渓谷の"門番"、ジュレール家に住まわ・・・すまわわわさせて頂いてるものです」
「地味に噛むな。"わ"が多い!」
「あなたは注文が多いですねっ・・・いたっ、ぶたないで下さいよぅ!」
「許可なく口を開くな。貴様は魔法使いの家で働く使用人か何かか?まさか本人ではあるまい。名前は?」

「・・・・・・」

「どうした。なぜ答えない」

僕の足元をじっとみる花嫁衣裳の女。
「・・・・・・これが、あなたのごはんですか?」

足元にちらばっていたのは雑木の枝や泥水やトカゲ。
「?そうだが、なにか問題でもあるのか?」

僕は抜き身の軍刀を女の喉下につきつけた。
「そんな事より質問に答えろ!場合によっては攻撃──むぐっ!?」

な、なんだ!?
なにかが僕の口の中に押し込まれた!
一瞬あわてて、思わず咀嚼してしまう。しまった、毒物かっ!?

しかし違った。
ヒノマル名産の穀物の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
もっちりとした塊の中には塩で焼いた魚がはいっていて、それが絶妙に穀物の味とからまる──

これは・・・おにぎり?

「どうでしょう?おいしいですか?」
僕が突きつけたサーベルからあっさりと脱出した女が、ふわりとヴェールを砂風にたなびかせて、僕の横に立っていた。
なんだと・・・ばかな、そんなはずはない!
この僕が、ここまで他人に接近を許すはずが・・・・・・!

「兵隊さんも大変だと思いますけど、たまにはちゃんとした食事を取らないとまいっちゃいますよ。
それは、ジュレール家特製のお昼ご飯です。
まだ花嫁修業中であまり上手くないけれど、いちおうわたしが作ったんですよ。えへへっ・・・

──あ、申し送れました、わたくしの名はジュレール・チルティス。

ジュレール大渓谷の"門番"、三姉妹の魔女のまんなか。"鉄の花嫁"と呼ばれております」


どうぞお見知りおきを。


そういって笑う花嫁衣裳の女。あいかわらずバカみたいにゆるい能天気な表情だったが。
おにぎりを口にしたまま驚愕に眼を見開いた僕は、きっとこいつよりマヌケな面だっただろう。


こうして僕とチルティスは出逢う。

最初は敵として。

最後には夫婦として。


-2-


ジュレール・チルティス──"門番"──魔女──『僕の敵』!

「いいだろう、さっきは『動けば殺す』と言ったがもう好きにしていいぞ・・・」
「?」
「ああ。動いてもいいし大人しくしててもいい・・・どっちにしろ殺すからな!」

そう叫んで僕は砂の大地を蹴って跳躍する。
その一蹴りだけで、チルティスの頭を軽く超えるほど高く!
「なんとっ!」
もちろん自分の筋力で跳んだのではない。
これは鉄魔術のひとつ《[[アイロット式機動装甲]]》によって、僕の身を包む金属鎧を操作して跳躍させたのだ。
僕は機動する鎧に搭乗したパイロットのようなものだ。

「《黒より暗き鎧・より強き遺伝子を乗せて・撃墜し・奈落の牙以て・より弱き敵を淘汰せよ!》」

コマンドワードを詠唱する!
空中でばしゃっと背中の装甲が開き火が噴出した。
サラマンダー機関がフル稼働して空中での自由機動を可能とし、僕は地表めがけて──花嫁衣裳の『僕の敵』めがけて、
その純白のヴェールを血で染めてやるつもりで拳を繰り出す!

握り締められた五本の鉄の指、拳、重き金属の塊に伝わる、確実になにかを砕き潰した感触──!

「やったか!?」

と、言ってから僕は気付いた。ふん・・・・・・
今の台詞は愚鈍なかませ犬の雑魚野郎が使う、典型的な「やってない」場合の台詞だな。
生存の確認をするのはまだ早い・・・もう少し殺しておくとしよう!
土煙が晴れるのも待たないで、僕はサーベルを構えた。

「《黒き神は人を憎み・虐げ・破壊する・静かに夜が更けていく・貴様が天使なら・終末の銃声を合図に首を刈れ!》」

《[[空襲サイレン]]》!
これも鉄魔術のひとつ、金属を媒介にマナを弾幕状に放射する爆撃砲だ。
サーベルの切っ先から閃光の球が空間を隙間なく埋めるように吐き出される!
耳を劈く轟音!そしてあっという間に辺りはクレーターだらけになり、空気が焦げる臭いが立ち込めた。
谷底の気温は急上昇して潅木にも火が燃え移る。トカゲも焼け死ぬ灼熱の風。
また土煙があがる。今度は煙の影に、魔女の血や、黒く焦げた花嫁衣裳の切れ端や、「ひぐぅ!」という悲鳴も確認したが──

「うん、普通に考えたらもう十分だが・・・なにせ敵は魔女。念のためだ。まだ殺そう」

僕は。
最後に、土煙の中に分け入って、血の染みた地面にのたうつ女を発見し。
「なんだ、最初の一撃の時点でほとんど殺っていたのか。まぁいいや。死ね」
その腹に刀身を埋めた。
*ずぶり!

「っ・・・・、・・・・かっ・・・・・・!」

「じゃあ悪いがこの渓谷を通らせて貰うぞ。それが勝者たる僕の権利だ。敗者の貴様はここで虫けらのように死ぬがいい」

ああ、いちおう言っておこうかな。

おにぎり、ごちそうさまでした。



そういって僕はサーベルを鞘に戻す。
ふん。嫌な気分だ。戦闘の後はいつも反吐が出るほど気分が悪くなる。
まったく僕は甘いな。女を刺し殺したからといって感傷的になるなんて。
戦場では女も子供もないんだ。
悲しんだって死者が許してくれる訳じゃない。
戦いを厭うたからといって"敵"が襲ってこなくなる訳じゃない・・・。

錆びた鉄色のマントを肩に掛けなおし。がしゃり、と金属鎧を鳴らしてきびすを返・・・・・・

きびすをか──あれ?

返せない。


「えへへっ・・・あなた、とっても容赦がなくて傲慢で酷いお子様だけど・・・ちゃんとごちそうさまが言えるんですね。
ちゃんと、人間の心を持ってるんですね。おねーさんは安心しました」

「!?」
僕の金属製の軍靴に覆われた足首を、手袋をした細い指できゅっと握って、血まみれのヴェールの奥で、そいつは笑った。
花嫁衣裳もあちこちが焼け、煤だらけの埃まみれの血ぬれた姿。
しかし穏やかな笑みだった。
つい今しがた攻撃されたのに、憎しみも殺意もない・・・慈愛すらほの見える、瞳だった。

「きっ・・・貴様、何を勝手に僕に触れて・・・!・・・いや、それ以前になぜ貴様は生きている!?」
「なぜ、と言われましても。あの程度の攻撃で死ぬことの方が難しいんですよ、私達三姉妹って」
「ふざけるな!そんな生き物がいてたまるか!化け物め、いや・・・魔女め!」

んー、とチルティスは少し考えるようにしながら、すくっと立ち上がった。
傷などあって無きが如く。僕の真正面に立ち、背筋をぴんと伸ばし、その長身で僕を見下ろす。
なんだこいつは・・・・・・!?

「あなた、お名前はなんと?」
「・・・じ・・・ジョウ・ジスガルド二等指揮官だ」

何となく気圧されて僕は名乗ってしまう。
ニトウシキカンは要りませんと笑いながら、魔女は明るく手をあわせた。

「ではジョージ様。あなたに"魔女"というものを少し教えてさしあげましょう」


そう言って──
「《だふにす・でるふぃす・ぐらめ・りりあら・ひよす・ひよす・とりあぞ・ぞるでぃか・くーるぅ・くーるふ・てけり・てけり・り・でぃーぷわん・でぃーぷわん・いんすますいんすます・あんぐ・ざんぐ・ヴぉーぱるぶれーど・ありす・ありす・ころげたさきに・きくばーくっぐぁ・ねくせれす・そべー・じん・おかわる・ちゃーどろす・ぞむ・ぞら・てぃーんち・ひのあくま・・・》」
──詠唱する!


し、しかし!この詠唱パターン、聞いたことがないぞ!?
綴りが意味をなしてない!定石も規則もまるで無視したでたらめな詠唱だ!
僕が知っているどんな魔術にも似ていない・・・いや、そうか、これはそもそも魔術ですらないのだった!

*魔法!

不死身の魔女!

3姉妹の──魔法使い!


「──《ちるてぃす!》」

詠唱が完成した!


その瞬間、ジュレール大渓谷を閃光が覆った。
圧倒的な光の奔流!視界が極彩色に塗りつぶされて──ゆく!
「ぐ、ぁあぁ・・・!」
眼を開けていられない、際限なく輝くその七色のひかりを、虹色を背景に、チルティスが変貌を遂げていた!

花嫁衣裳がひかりの糸となりほどける。虚空に踊るように。
肌が見える。
ヴェールはそのままで。
淡い金色だった髪はまばゆく発光し、ひかりの糸と融合する!

糸は編まれて、編まれて、まったく違う形に編み上げられていく!

髪型と、服装と──次々と変身しながら、チルティスは閉じていた眼をうっすらと開いた。

その瞳が僕の顔をとらえた途端──
「えへへっ!」
ぱぁっと明るく笑い、同時に顔が変わる!
あきらかに幼い、あどけない女の子の姿になる!
体も一気に縮んでいる!
短いツインテールに、縞模様のタイツ。
花嫁衣裳はミニスカート風にモデルチェンジしていて。

その右手には彼女の(それも元の身長の)三倍はある、凶悪なスパイクつきのスレッジハンマーが握られていた。

辺りに飛び交っていた虹色の光は、つむじ風がだんだん小さくなるように収束し、そのハンマーに宿った。
ぽ、と灯が燈った鈍器。
風が止む。
僕の髪がやっと鬱陶しく暴れるのをやめて大人しくなった。

「こ、これは、これは・・・・・・!?」


「そう。"変身"です。変装でも偽装でも仮装でもありませんよ、"変身"です。
運命をまるごと変える能力。別の世界の別の自分になれる。大人にも子供にも、優しい自分にも残酷な自分にもなれる。
──そしてあなたと同じ12歳にもなれる。
えへへっ・・・いまのわたしは、そうですね、魔法少女ジュレール・チルティスちゃんって所でしょうか?」

恐らくはそれが魔法のステッキなのだろう。異様なサイズの凶器を恥ずかしそうに胸元に抱え。
花嫁衣裳の女は・・・いや、少女は、僕にたいして死刑宣告をした。


「機神都市エルベラへ行きたければ、あらゆる可能性の"わたし"を殺し終えてから行くことですね。
何百人"わたし"が死のうと、何億年かかろうと、最後の最後までつきあってあげますよ。
・・・・・・えへへっ、まぁそれまでにあなたが死ぬでしょうけどね♪」


-3-


「10歳の頃のわたしはまだ魔法を使いこなせなくて、姉妹のなかでも大変な落ちこぼれでした。
あ、いまでもそうですけどね・・・その頃は特にということで・・・えへへっ♪
でも育ててくれたオジイチャンにも申し訳なくて、わたしは魔法が使えない代わりに
この"[[ミョルニル]]"を手に、朝から晩までずーーーっと戦闘訓練に明け暮れて過ごしていたんです」

"ミョルニル"。
ふたつの車輪を組み合わせたような。水車のような槌の部分。
金属のワイヤーを捻って固定した、掌より太い柄の部分。
彼女の握りの形に変形した持ち手の部分。
塔のようにそびえ、竜のように重い──トゲ付きのスレッジハンマー。

「その重みに疲れ果て、途方に暮れて。わんわん泣いて。でもこれしか出来なかったから・・・がんばりました」

それを幼い彼女は振り回す!
*ブオッ──
片手で、頭のうえへ掲げ、そのまま背中側へと回し!
*──ォォオオオォォオォンッ
乾いた風を切り裂き、周囲の木々をへし折り、一周してもう一周して嵐のように回転して!そして!

*──ズシャァ!
僕の足元へ、振り下ろした。

「それから2年後、わたしはこの凶器を使いこなせるようになりました。
肉体的には全盛期といってもいいでしょう。
だからこの12歳のわたしは──強いですよ」


大地にめりこんだハンマーヘッドと、そういって不敵に笑う幼い魔女の顔とを見比べるまでもなく、
彼女がひとりでラグネロの一個大隊に匹敵するとんでもない存在なんだという事がわかった!
灼熱の太陽などものともせず冷や汗が流れる。

「くそっ、能天気なおにぎり女の癖になかなか切ない昔話をしてくれるじゃないか!
2年間もこの規格外の凶器を振り回して暮らしていただと!?
僕なんか箸より重いものは軍刀くらいしか持ったことがないぞ!勝てるか馬鹿者め!」

「あらあら、身体はちゃんと鍛えなきゃ駄目ですよぅ?ほらわたしみたいに」そういって細い腕でガッツポーズ。
「貴様レベルまで鍛えてる指揮官がいるかー!そんなバケモノ即座に前線送りだ!」

そもそも僕は虚弱体質なんだよな・・・。
白兵戦をするときは鎧を魔術で動かして戦う。全身鎧を脱がないのはその為でもあるのだ。

(そんな僕が、口八丁の二枚舌で、冴える頭で、少しの鉄魔術と一本の軍刀で戦ってきた僕が・・・)
(こんな奴に勝てるのかっ!?)

あらためて思う。
しかし。

(──いや、勝つしかないんだ。任務を完遂できずにおめおめ故郷に戻った所で居場所はない)
(勝ち続けなきゃ軍人は価値がないんだ!)


「・・・・・・ところで貴様に問いたいことがある」
僕は時間稼ぎをするために中身を考えてもない質問をする。

「いいですよ、冥土のお土産に何でも教えてあげます」
もう冥土の土産かよ!と突っ込みたくなるのを我慢して策を考える。

「貴様がずっとしてる、そのヴェールだが・・・」
よし、14個ほど策を思いついた。

「えへ、これですか?お姉ちゃんのお下がりだけど似合うでしょう?」
そのうち一つを実行することにした。覚悟を極める。

「ふん、どうりでサイズがあってない訳だ!」
僕はそう叫んでサーベルを閃かせる!
*すぱぁあん
「なっ・・・ああっ!!!」
チルティスの極楽鳥花で彩られたヴェールが、幾束の髪とともに切り裂かれた。
はらはらと花弁とともに地面に落ちる。

会話からの不意討ち!からの──

僕はそれを軍靴で踏みつけた。砂に、なすりつけるように。
「あ、あっ・・・!」
呆然としたチルティスの瞳に徐々に大粒の涙がたまっていくのを確認する。ふむ、こんなところか。
ゴミのように蹴っ飛ばして。
幼い姿のチルティスが、その震えた手でヴェールを拾う様を見下しながら。

「えうう、うっ・・・ヴェールが・・・お姉ちゃんから貰った大切な・・・!」
「貴様にはちっとも似合っていないよ。そんなもの、とっとと屑篭に捨てることだな」


僕が選んだ策。それは14個ある策のうち最も下劣で姑息な策。

・・・『挑発』だった。


地面にひざまづいて、僕が汚した純白のヴェールを胸に抱え、ぽろぽろと涙を流す少女。
12歳のジュレール・チルティス。
殴って爆撃して軍刀で腹を貫いても怒らなかったこの少女が──やっと、僕を非難の目で睨んだ。

「・・・ひどいですよ!なんでこんなことをするんですか!?」

「さぁな、楽しいからかな!実は僕、貴様みたいな女の子をいじめるのが大好きなんだ!」

「ええっ、へ、変態さんじゃないですかー!」

「そうさ!僕のことは変態という名の紳士と呼ぶがいい!さぁ早く抵抗しないとそのスカートもめくっちゃうぞ!」

・・・・・・いや、もちろんこれは演技だからな。
こんな天真爛漫ノー天気なやつを挑発するにはこれくらいやらなくては駄目なのだ。
僕だって嫌々やっている事を解って欲しい。
まったく、こんな所を蒸気都市ラグネロで僕の帰りを待っている部下どもに見られたら
「やっぱり隊長はドSだったんですね」などと誤解されてしまうではないか。

だが、それだけのリスクを犯してまで挑発した甲斐はあった。
チルティスは手の中のヴェールをぎゅっと握りしめて、ゆっくりと、立ち上がる。


「ジョージ様、少し悪戯(おイタ)が過ぎますよ・・・今は同い年なんですから、許して貰えると思わないで下さいね・・・」


しゃらんと踊るフリルの縁取りのミニスカート。
ふくらんだ肩そで。肘まで覆う白いグローブ。
折れそうに細い足を包むタイツと、可愛らしい赤い靴。

さくらんぼの髪飾りでとめたツインテールが、風に揺れて。

──そして、凶悪なるスレッジハンマー。


「12歳にしてゆがみに歪んだその根性、私が文字通り"叩き"直してあげましょう!」

「鉄じゃあるまいし、叩いたくらいで人間性(ヒト)が真っ直ぐになる訳がないだろう。馬鹿か貴様は?」

僕の屁理屈に、チルティスは言葉を失い、ぐっと睨み、そして・・・


「馬鹿は貴方です!」

ハンマーを手に飛び掛ってきた!

慌てて飛びのいたその一瞬後、僕の立っていた場所は岩盤ごと砕かれて大穴が開く。
大きな亀裂が周囲の岩壁にまではしり、左右の崖が大気を震わせながら崩れた。
「う、うおおっ・・・!」
馬鹿げた破壊力!
ガレキが滝のように降り注ぎ!
枯れ木に止まっていた鳥が羽根をまきちらしながら一斉に逃げ出す。
渓谷の道は一瞬で封鎖された!もう帰り道は──ない!

(ふ、ふん、想像以上の破壊力で退路を絶たれてしまったが)
(構うものか、どうせ僕は逃げ帰りはしない)
(ここからは目標地点エルベラへ向けて全力疾走だ!)

「まてー!変態めー!」
ガレキの山をぶち破って、全身をマナの輝きで覆った魔女が、凶器を片手に宙に踊り出る。

僕はくるりと背を向けた。
(いいぞ──追って来い!)


-4-


「エルベラには」

「侵入させ」

「ま」

「せん」

「よ!」

*ガオンッ!
ひとつ咆哮するごとにハンマーを振り回し、地形を削ぎ取る渓谷の魔女。
彼女の通った跡にはペンペン草ひとつ生えない。
破壊の権化みたいな奴!なんて力任せな肉弾戦法だ!こいつ本当に魔法使いか!?


渓谷は先へ進むごとに険しくなっていって、ごつごつした岩に防がれた道や倒木が多くなった。
僕はそれを息を切らせながら登り、藪をサーベルで切り裂き、時には倒木を潜りぬけながら、
魔女の猛攻から逃げ回っていた。
「くっ・・・!畜生、あともう少しなんだ!」
つづら折り。
前方の斜面は右に左に折れ曲がる登り坂で、しかも両側は崖だった。

渓谷の底を歩いていたはずが、いつのまにか山登りの様相をしめしているな。だがしかし、それは
山脈地帯の隠れ里、機神都市エルベラが近いということでもある!
僕は崖へ踏み外さないように慎重に、馬車がようやく通れる幅の山道へ踊り出た。
やったぞ、もしかしたらこのまま逃げきれ・・・


「えへへ、ジョージ様みーっけた♪」


能天気な声が、甘い吐息が、ぼくの耳にかかった。
(!?)
ぞくっと鳥肌。

僕が疾走している道。両側は崖で、その下にはいままで歩いてきた渓谷が見える。
ずいぶん高い。
その空中に。
青空に。
白い花嫁衣裳が舞っていた。

(魔法・・・か!)
彼女の足元、可愛らしい赤い靴は、宙に波紋をひろげながらしっかりと立ち!
冷たい泉につまさきをつけたような複雑な波紋、その色はよくみるとマナの輝きに酷似している!

魔法と魔術の違い!
魔法使いは先天的、才能、唯一無二(オリジナル)! 魔術士は後天的、努力、模造犯(コピーキャット)!
魔法使いは生まれた時から『魔法使い』という人間とは別種の生命体で!
オリジナルの魔法(チルティスの場合は"変身")を使う以外にも、呼吸をするが如くマナを用いた行動をとる!

魔術士ならひとつの魔術としてカウントするような行動も!
魔法使いにとっては詠唱すらいらない日常茶飯事!

チルティスが空を歩いて僕の死角に回り込んだのも、まさにそれだった。

「初めから存在してる世界(フィールド)が違うんですもん、貴方が私から逃げられる訳ないですよ」

えへへ、などと笑っておきながら。
眼だけは笑っていない。
たぶんこの女にしては珍しく、猛烈に怒っている。
空中で、花嫁はハンマーを振りかぶって──

(ッ!しまった、気配がないから、"詠唱"が聞こえないから油断したッ!)
僕はあわてて詠唱する。ふん、魔術は面倒だ、間に合うわけがないな──と頭のどこかで冷めた声。

「《黒い時間が訪れて・冷笑者の心臓が止まる・炎鷲・毒蛇・双頭の狗・こわが──》」
「間に合うわけがないでしょう!」


やっぱりね。


振り下ろされたハンマーは、その先端が車輪のかたちになっていてスパイクがぞろりと並んでいる。

その、幾人もの血を吸ったであろう刺が僕の全身鎧にめりこみ、ひしゃげさせ、貫通する。

ざぐん、と刺さる音。みょうに綺麗に聞こえる。

「・・・ぐぶっ!」

血を吐いた。いくつか大事な器官がやられたらしい。たぶん肺だろう。

7歳の頃父親に肺を破裂させられた時と感覚が似ている。

空が回転して、僕は自分が吹っ飛んでいることを知る。

やばい。ここはすでに高山地帯でまわりは崖だ。

墜落すればひとたまりもない、

「ばいばいジョージ様」

そういって背中を向けたチルティスを、猛烈に揺さぶられている僕の視界が捕らえた。

魔女め。容赦がない。彼女は本当に強かった。



──やれやれ、だがまだ兵士としては甘いな。

「《炎鷲・毒蛇・双頭の狗・怖がらなくていい・貴様の前に・もう敵は居ない》」

これを機に知っておけよ、この僕が"回避が間に合わなかった"くらいで詠唱を止める軟弱者ではないことを!

僕は破れた肺で詠唱を最後まで歌いきった。
鉄魔術《[[シニシズムビート]]》。
それは自分を操作して痛覚除去を行う精神安定の魔術だが。
僕の使い方は普通の魔術士のそれとは違った。

逆に痛みを増して、感覚を増強して、脳内麻薬を噴出させる狂戦士(ベルセルク)の魔術として使用する!
めきめきめきっ!と鎧のなかで盛り上がった筋肉が、腹にあいた7つの穴をぎちぎちに固め、血を止める。
視野がひろがり、聴覚がクリアになる。
時間感覚がひきのばされて、風に舞う砂のひとつぶまでよく観察することができる。
サーベルを音もなく抜き払って、背中のバーニアで火を噴いて吹き飛ぶ自分の身体のベクトルを逆転!

(では反撃を開始しようか!)
(もちろん目標はチルティス──油断しきっている渓谷の魔女の、その背中へ!)

「ただいま、"僕の敵"!」
「は・・・えッ・・・やぁあああっ!?」

僕は彼女の体ごと岩に激突する!
魔女の背中に、まるで羽根でも生やすかのように僕の軍刀を突き立てて。
んー。ざっくりと良い手ごたえだ。
そういえば最初は腹を貫いたんだっけ。一日に二度も女の背中や腹を貫くとは・・・ふ、ドSといわれても仕方がないな。

「や・・・!いた・・ぃ・・・よぅ・・・!」
ぼどぼどぼど!血液がぶちまけられる。地面はあっという間に赤く染まった。
身をくねらせ剣を抜こうとする少女はピン留めされた虫みたいだった。こうなってしまえば可愛いものだ。
「ふん、それくらい我慢しろよ。ぼくなんか貴様のハンマーのスパイクで七つも穴が開いてるんだぜ」

実際、僕は僕でけっこうな重症だった。穴もそうだが折れまくった骨もやばい。
魔術で抑えていなければ今にも倒れそうだった。
しかし僕なら、もし倒れても鎧を操作して、その歩く棺桶で無理やりエルベラへ向かうだろう。
それが覚悟だ。

「さっき貴様は世界(フィールド)が違うなどといったが・・・馬鹿馬鹿しい。
どの世界だって戦場は変わらず平等だ。性別も年齢も強いも弱いも関係ない。
覚悟が決まっている側が──勝つのさ」

「か・・・くご・・・」
「さらばだ、"僕の敵"」
軍刀を戦場に残し、マントを翻して僕は征く。
機神都市エルベラへ。
またくだらない戦争をしかけようとする、祖国のために。



「やだ、やだやだ、いっちゃやだ!・・・エルベラにはいかせないもん・・・!
《だふにす・でるふぃす・ぐらめ・りりあら・ひよす・ひよす・とりあぞ・・・》」

「ほう、まだ唱えられるのか」
傷を治すためにまた"変身"しようというのだろう。
僕はそれを止めない。
「《ぞむ・ぞら・てぃーんち・ひのあくま・・・ちるてぃす!》」

こいつにはもう変身などできないからだ。

「えっ・・・あれっ、へ、変身できないよっ!?」
「貴様が言ったのだ。その頃のわたしは魔法を使いこなせなかった、とな」

チルティスは道端の巨岩に背中を縫いとめられたまま。
12歳の幼い姿のままでひどく慌てた。
"変身"の魔法の、あの虹色の閃光はあらわれなかった。

「12歳になって肉体能力が全盛期の頃に戻ったのなら──魔法能力もまた無能に戻ったのだ。
そんなことも計算せず戦っていたのか。馬鹿め」

「あっ・・・あああああああ!」
呼吸するようにマナを扱えても。
オリジナルの魔法能力は、まだ使いこなせない。

10代の頃のジュレール・チルティスは、確かに"門番"の家系の落ちこぼれのようだった。ふむ、納得。




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[ 2012/06/24 00:35 ] 小説 《機神エルベラ》 | TB(0) | CM(0)

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